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SBC モーニングワイドラジオJ 7月15日(金)放送

 

SBCラジオ モーニングワイド「ラジオJ」の中で毎月第3金曜日の放送内「Jのコラム」で本の紹介を担当させていただいています。今月の番組内で紹介した2冊の本を改めてピックアップ。

◎書籍情報を記載しますので遠方の方も興味が湧いたら、お近くの書店で探してみてください。

 

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おいしいごはんが食べられますように

著 者  高瀬隼子
発 行  2022年3月
出版社  講談社​​​​

 

仕事を早く片付けて、同僚とビアガーデンに繰り出したい。そんな季節が到来です。
できることなら明るいうちから飲み始めたいですね。

タイトルの中にある「おいしいごはん」の価値観は人によって異なり、生きるうえで大切だからこそ、その振り幅も広いように思います。そうした違いを、この小説は職場の人間関係を通して描いていきます。

主な登場人物は3名。「要領よく立ち回りそこそこうまくやっている二谷」と「頑張り屋で強く、仕事もできる「わたし」、この二人の視点と語りが交互につづられることで、ねじれた文体が違和感を生みながら物語は進みます。もう一人の人物「弱く儚げで、みんなに守られている芦川」が加わり不協和音がざわざわと発生します。

 

体が弱く早退しがちな芦川は、そのお詫びにと手の込んだお菓子を手作りし、職場の同僚に配ります。ごく普通にありそうな出来事が、なぜか読者の心を引っかきます。俗にいう「あざとさ」でしょうか。非の打ちどころない料理を手際よくつくる。疲れた同僚に甘いお菓子を差し出す。体にやさしく、お洒落でおいしい食事をいつも気にかけている。それなのに、気配りはできても仕事は頑張らない。一方で、休みがちな芦川のしわ寄せを受け、いら立つ「私」は、食に対して無頓着な二谷と居酒屋で意気投合し、芦川にいじわるを企てます。

それぞれの「食べること」への思いが、互いの生き方に投影され人物像を際立たせます。食べ物を通して、職場という閉ざされた環境で関わり合う同僚たちに、「あ、いるいるこういう人」と身近な人を思い浮かべてしまいます。そうした、なんでもない日常とありふれた人間関係だからこそ、噛み合わない和音が当たり前のように鳴り続け、物語にスパイスとなって味わいが出てきます。

生きることの基本だからこそ、食べることで見えてくる気づかいや配慮、思惑などの感情が渦を巻く。その感情の渦がジェンダーやワークバランスの問題にも派生し不協和音は広がるばかり。

「おいしいごはん」ってなんだろう。

どこの職場にもありそうな人間関係、食を通して繰り広げられる会話、ささやかな感情の機微を繊細に描写した恋愛小説。真夏のおでんや二谷が飲み干す生ビールに舌鼓を打ちつつ、「おいしさ」について考えたいです。7月20日に発表される、第167回芥川賞の候補作です。

 

 

 

 
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BIRTHDAY BOOK 20歳のあなたへ

著 者  谷口香織
発 行  2018年11月
出版社  雷鳥社

 

もう一冊は以前、妻が紹介したことのある本です。

こちらは、子供が生まれてからの記録を綴るために作られた絵本ですが、可愛らしい熊の親子のイラストともに子供が生まれた時の体重や身長、その時に感じたことを書き込む欄が設けてあります。

最初の一年は各月、ページを捲ると一歳の時、その時に仲良くしていた友達のことや、喜んだこと、悲しんだこと、驚いたこと、困ったこと、そして世の中の出来事など。フリースペースにはお子さんを見守る親としての気持ちを自由に書き込め、毎年書き続けることで20年後に親と子だけの、世界にたった一冊の本が出来上がります。そして子供が二十歳になった時、この本をプレゼントする、それがこの本が目指し完成を迎えるときです。

寡黙なお父さんも、よく一緒に遊ぶお父さんも、日々をおくるうえで忘れてしまったり、言えなかったことだったり、そうした親子の歴史の全てを伝えることのできる、「ずっと見守ってきた証」です。どんな本になるのかは、あなた次第。版元の雷鳥社のHPを見ると実際の作成例が紹介されていて、みなさん写真を切り抜いて貼り付けるなど思い思いの一冊を作っていらっしゃいます。

私はこうして、妻の代打で本の紹介をしているのですが、実は先月、我が家にも子供が誕生しました。妻は出産直後ということもあってしばらくお休みさせていただき、私の本の紹介にお付き合いいただくことになりそうです。そうしたこともあって、私はまたこの本を手に取りました。今回は自分が書くためにです。

子供の誕生に接して、「父親とは」、なんてことをよく考えました。日々お腹が大きくなって蹴られたりしながら反応を感じて変わっていく妻とは違い、根本的に父親になることの実感が湧かない。帝王切開だったこともあって、あっけなく、急に赤ちゃんが目の前に現れたのですが、コロナ禍で入院中の面会もできないあいだに、私はこの本を開き、まだまっさらなページを捲りました。

病院で見た産まれたての赤ん坊の顔を思い出しながら、これから始まる二十年という歳月を想像し、途方もなく長く感じるのに、あっという間に過ぎ去ってゆくであろう、かけがいのない時間が動き出したと感じて、初めて生まれてきた子と自分がつながったように思えました。なんとも言えない愛しさが込み上げ、涙がこぼれました。

こうして私は、父になりました。

赤ちゃんは、どちらかというとお母さんとの関係性が強いものかもしれません。だからこそお父さんがこの本を書き、思いを言葉にして残すこともいいのではないかと感じています。そうすると自分ができることを探して、積極的に子育てに参加したくなるようにも思っています。

あなたをお父さんにしてくれる本ですヨ。

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